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about Karopka from Mayumi Maeda

「きりょうよしのワシリーサ」から・・・

わたしにとって、ロシアといえば、子供の頃に大好きだった「ロシア童話集」という本。

あかね書房 ロシア童話集
中村融・木村浩訳
1968年版


たまたま親戚の人にもらったこの本、ボロボロになるまで、何度も何度もくりかえし読みました。

その中で、とくに好きだったのは「きりょうよしのワシリーサ」という、ちょっとシンデレラに似たお話です

継母とお姉さんたちに辛い仕事ばかりさせられているワシリーサは、賢くて可愛い女の子。継母たちに言われて、森の中にある魔女のババ・ヤガーの家に灯りをもらいに行かなくてはならなくなったのですが、死んだお母さんがくれたお人形が助けてくれて、最後には王様と結婚して幸せになるというストーリーです。


2002年に出版した「リネンが好き」の中でも、少しだけそのことを書いたのですが、そのワシリーサのお話の後半に、ワシリーサがアマ=亜麻の布を作る所が出てきます。ワシリーサが糸を紡いで織った亜麻の布は、「くるくる巻くと針の穴に通せるほど薄くて上等でした」とお話には書いてありました。
そのお話を読んでいた子供の頃は、「アマ」っていったいどんなものなのか、よくわかっていませんでした。ただ、読んだお話からは、イメージとして馬のしっぽのようなふさふさしたものから布ができていく様子を想像していたのですが、今考えると、案外当たっているような気もします。
思い返せば、それがわたしにとって始めての「リネン」との出会いでした。


大人になって、リネンが好きになって、どうしてもフラックスとリネンのことを知りたくてたまらず、フランスのノルマンディー地方に出かけたとき、世界で一番リネンをたくさん作っている国はロシアだと聞きました。
「量の世界一はロシアだけど、質ではフランスなんだよ」と、フランスの人は、胸を張って教えてくれたものです。
そんなわけで、わたしにとってロシアは憧れのリネンの国になりましたが、当時(2000年)はまだ、ロシアは、近寄りがたい国という部分があったのも事実です。

「ロシアのリネン」って?

ロシアでは、気候など自然条件がリネン作りに合っていることから、昔からたくさんのリネンが作られていたそうです。


ロシアの国土の西の地方には、ヴォルガ河という大河が流れていて、その川の周辺がもっとも有名なリネンの産地だそうです。
歴史的なことを少し聞いてみると、ピョートル大帝という有名な王様の時代には特に力を入れて、西ヨーロッパにもたくさん輸出するようになったとか。宮廷を中心にしたロシアの貴族文化の中で、リネンの文化も確実に育っていったのだと思います。
でも、ロシア革命のあと、共産主義政権になってからは、ボルシェヴィキと呼ばれた人たちは、それ以前の文化を全て否定してしまいました。暮らしの中に当然のようにあったキリスト教でさえも完全に否定してしまった程で、リネンの文化も「ブルジョワ的」と否定されたようです。
その反面、国の産業としては国営工場の形でそれなりに力も入れて操業はされていたそうです。でも、ソ連が崩壊して国が混乱して、それまで国営工場だったリネンの工場も、半分以上操業を停止しているような状態がずっと続いていたのだとか。
けれど、やっと国内も安定してきたここ数年、ロシアでもリネン作りがまた盛んになってきつつあるようです。


「アルハンゲリスク地方の刺繍」に代表されるように、ロシアには独特の刺繍の文化もあります。長い冬の間は女性たちが家で手仕事をする習慣があって、そういった手刺繍のクロスや、美しい手編みのリネンのレースなどが、今も昔ながらの方法で作られています。



「カロープカ」

「カロープカ」は、ロシア語で「箱」という意味。せっかくロシアでリネンの製品を作るのだったら、やっぱりロシア語の名前がいいな、と思って、この名前に決めました。
まだ、わたしたちの「カロープカ」の中は、そんなにいっぱいではありません。
少しずつ、新しいものを考えて行って、小さな箱=カロープカの中に、ロシアで作るリネンのアイテムを入れていけたらと思います。


ところで、ロシアの担当の人に、一番わたしが聞いてみたかったのは、「ワシリーサ」のこと。

ワシリーサとバーバ・ヤガーのお話を、わたしは子供の頃何十回も読んだのだけど、そのお話を知ってる?」

と聞くと「その話は、ロシアの子供なら誰でもみんなが知ってるおとぎ話だよ」

という返事でした。ワシリーサのお話は、ロシアの子供たちにとっては、たぶん、「桃太郎」みたいなお話なんでしょうね。

2006年3月

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「リネンが好き」
前田まゆみ著
文化出版局
2002年初版

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